「SBT」とは、「科学的根拠に基づく温室効果ガス排出削減⽬標」のことです。世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して1.5℃に抑えることを目的として企業が削減を約束する仕組みで、大企業だけでなく、多くの中小企業も取り組んでいます。
SBTのガイドラインは世界のCO2排出の状況に応じて、今までも何度か改定が行われてきました。2027年2月からはさらに厳格化された新たなルールへと移行が始まります。今回は既にSBT認定を取得済みの企業にも影響がある、5年毎の目標見直しについて解説します。
SBT HP:https://sciencebasedtargets.org/
2026年6月、SBTを運営する国際団体「SBTi」は、認定の土台となる基準の新版「企業向けネットゼロ基準 バージョン2.0(Corporate Net-Zero Standard V2.0)」を発表しました。目標の設定に関する様々な規則が新しくなる大きな改訂です。
(参考)https://sciencebasedtargets.org/corporate-net-zero-standard-v2#3698065
大きな変更点は、これまでの「通常版/中小企業版」という区分がなくなることです。これまではSBTiで定められている条件に当てはまる中小企業は「中小企業版」という、通常版よりも簡素化された手順でSBTの認定を受けることができました。今後は「カテゴリーA/カテゴリーB」という新しい企業区分が適用され、全ての企業が同じルートで申請を行うようになります。以下のカテゴリーAの条件に当てはまらない企業はカテゴリーBに分類され、従来の中小企業版に近い内容で申請を行うことができます。
○カテゴリーAの条件
・売上高4.5億ユーロ以上、または従業員1,000人以上の企業
・スコープ1・2の排出量合計が1万tCO2e以上または、
総資産2,500万ユーロ、売上高5,000万ユーロ、従業員数250人以上のうち2つ以上に該当する企業
中小企業版では今までScope1+2の削減目標を設定していましたが、バージョン2.0ではScope1、Scope2それぞれの目標設定が必要となり、申請時の回答内容の増加・複雑化が予想されています。
さらに今回の新基準では、元々大企業中心だった5年に1度の目標の見直しが中小企業にも適用されるようになりました。CO2削減のルールや計算方法は年々新しくなるため、自社の目標が最新の基準に合っているか見直しを行い、古い目標のままにしないようにするという考え方です。2027年2月から新基準への移行開始予定となっており、認定を続ける場合は、この見直しへの対応が必要になります。
(参考)https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Cat-B-Minimum-Criteria.pdf?_gl=1*1sr5e47*_gcl_au*MTc4NDAzMDc1NS4xNzc5MjY3NTQ2*_ga*MTg3MTA5MzE1LjE3MTcxMTg1ODg.*_ga_22VNHNTFT3*czE3ODU3MjM2MzYkbzM0MSRnMSR0MTc4NTcyNDc0NCRqNjAkbDAkaDEyNzI2NjUzMjY.
目標見直しの流れは大きく2ステップで実施されます。
SBTiへ必要資料を提出してレビューを受けます。レビューの際には、次のような資料が必要になります。
・年次サステナビリティレポート/CDP回答(PDFまたはXLSX)
・目標設定に使ったファイルとツールのバージョン(SDAやセクターツールを使った場合)
・除外した項目の定量化データ(tCO2eおよび%)
SBTiによるレビューの結果、最新の基準に達していないと判断された場合は新しい目標を再設定します。
SBTの認定から5年後の月末を「トリガー日(起算日)」とし、トリガー日から6ヶ月以内にレビューの提出を行う必要があります。例えば、2023年8月に認定された企業なら、トリガー日は2028年8月末となり、2029年2月末までにレビューの提出を行います。目標の更新が必要な場合は、トリガー日から12か月以内(2029年8月末まで)に新しい目標を提出します。
期限内にレビューを提出しなかった場合、SBTi公式サイト上の公開ステータスが「Targets Set(目標の設定)」から「Previous Targets(過去の目標)」へ格下げされます。
なお、レビューにかかる費用(審査料など)は、2026年8月3日現在では公表されていません。

(参考)https://docs.sbtiservices.com/resources/MandatoryFiveYearReviewManual.pdf
すでにSBT認定を取得している方は、まず自社の認定日を確認し、トリガー日(=認定日から5年後の月末)を把握しましょう。レビューの際は年次サステナビリティレポートのような、年間排出量が把握できるものを提出する必要があるため、今から毎年のCO2排出量と削減状況をきちんと記録・公表しておくことが大切です。
これから取得を考えている方は、取得後に「5年毎の見直し」があることを前提に、無理なく続けられる目標とデータ管理の仕組みを最初から整えておくと安心です。SBTは年々申請内容の厳格化や申請費用の値上げが行われているため、取得を検討している方はできる限り早く申請を行うことをおすすめします。
SBTi公式サイト上の公開ステータスの格下げや、自らSBT認定を撤回することは、企業の社会的信用を損なうリスクがあります。だからこそ、日ごろからデータをためておき、レビューの直前で焦らないように準備しておくことが大切です。
バージョン2.0への移行により、これまで大企業中心だったルールが、中小企業にも本格的に関わってきます。SBTは「一度設定したら終わり」ではなく、5年毎に見直す時代になりました。すでに取得した企業は次の見直しへの準備を、これから取得する企業は続けやすい仕組みづくりを意識することが大切です。まずは自社の認定日とトリガー日の確認から、一歩ずつ始めていきましょう。
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