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コラム

2025.06.06

脱炭素事業への衝撃~トランプ大統領は反脱炭素なのか?~

今年1月、ドナルド・トランプ氏が大統領に再就任し、早々に環境・エネルギー政策の大転換となる大統領令に署名したことは、記憶に新しいでしょう。パリ協定からの脱退表明や、国家エネルギー緊急事態の宣言など、表面的には脱炭素の潮流に逆行する政策が次々と打ち出され、「反脱炭素」との見方がメディアでも広がっています。しかし、実際のところはどうなのでしょうか。
トランプ政権のエネルギー政策を注意深く分析してみると、単純な「反脱炭素」ではなく、むしろ「エコロジー(環境)とエコノミー(経済)の均衡」に焦点を置いた、独自の合理的な戦略を模索していることが見えてきます。
本記事では、表面的な「反脱炭素」のイメージではなく、トランプ政権が描こうとしている脱炭素政策の本質とその戦略について考察していきます。

 

世界で最も低コストなエネルギーと電気

トランプ大統領は、就任初日の2025年1月20日、パリ協定からの再脱退を含む、環境政策の大幅な転換を示す5つの大統領令に署名しました。これらの決定は「アメリカ・ファースト」を旗印に、多国間協定よりも自国の経済成長を優先する姿勢を如実に表しています。
また、トランプ大統領は選挙公約の中で「世界で最も低コストなエネルギーと電気を持つことで、インフレが抑制され、アメリカ経済が前進し、高賃金の雇用が何百万も創出される」と発言しています。このビジョンに沿うかたちで、初任演説では「国家エネルギー緊急事態」を宣言し、化石燃料の国内生産拡大を強く打ち出しました。
この方針は、安価なエネルギーと電気を原動力に、産業の活性化と雇用創出を目指すという極めて実利的な発想に基づいており、トランプ政権のエネルギー政策が自国の経済競争力を高めることに焦点を置いていることを示唆しています。
しかし、これらの方針は途上国支援の停滞や温室効果ガスの排出量増加を招くとの懸念も強く、国際的には批判の声が相次いでいます。

[出典]
NHK;トランプ大統領「パリ協定」から離脱する大統領令に署名
Reuters; トランプ氏、エネルギー非常事態宣言 パリ協定離脱し政策転換
TRUMP VANCE; Agenda47: America Must Have the #1 Lowest Cost Energy and Electricity on Earth

 

トランプ大統領は本当に反脱炭素なのか

トランプ大統領は2024年7月に行なわれた共和党全国大会の指名受諾演説で次のように発言しました。
「まだ使われていない何兆ドルもの資金を、(中略)無意味なグリーン・ニュー・スキャム(詐欺)のようなアイデアに費やすことは決して許さない」
グリーン・ニュー・スキャムとは、詐欺的な環境政策を意味し、この演説からトランプ大統領は必ずしも脱炭素そのものに反対しているのではなく、むしろ合理性を伴わない無意味な脱炭素政策を撤廃し、有効な政策のみを慎重に選択、実行する姿勢を持っていることが予想できます。
実際、トランプ大統領の第一期(2017年~2021年)では、コロナ禍による経済不調はあったものの、オバマ政権時代を上回る経済成長率を出しつつ、GDPあたりのCO2排出量を減少させるという結果を残しました。

[出典]
NBC10 BOSTON; Read Donald Trump’s full RNC speech accepting GOP nomination
IEA;GDPあたりのCO2排出量
IMF;経済成長率

 

トランプ政権が掲げる脱炭素・反(無意味な)脱炭素政策の事例

トランプ大統領が発表した大統領令や政策の中には、トランプ大統領の戦略を反映した有効な「脱炭素政策」と、無意味な脱炭素政策を廃するための「反(無意味な)脱炭素政策」が存在します。ここでは、その事例を1つずつご紹介します。

〇脱炭素政策「水素・原子力・バイオ燃料の推進」

トランプ大統領率いる共和党では、以前から水素・原子力・バイオ燃料などへの技術支援を行なっており、またこれらが共和党州を中心に雇用創出に貢献しているため、これらの分野については今後も税額控除などの支援が継続すると予想されています。
特に原子力やバイオ燃料については、大統領令14213号の中で、石油や石炭と並んで「私たちの素晴らしい国家資産」とし、これらを活用することで経済を成長させるとしています。

 

〇反(無意味な)脱炭素政策「電気自動車(EV)義務化の撤廃」

トランプ大統領は大統領令14154号の中で、バイデン前政権が掲げていたEVの推進政策を撤廃しました。EVには環境に優しいイメージがありますが、バッテリーの製造・廃棄過程や、火力による発電工程で大量のCO2を排出するため、ライフサイクル全体で見たときに、現時点では必ずしもガソリン車より環境に優れているとは言えないことが要因だと考えられます。
しかし、EV自体を禁止しているわけではなく、「自動車に関する消費者の選択についての公平」を確保することを目的としているため、EVとガソリン車の共存を図りながら、将来的な技術革新の可能性を模索しているとも考えられます。

このように、トランプ政権の脱炭素政策は「全否定」ではなく、「エコロジーとエコノミーの均衡」を重視した合理的なアプローチであることがわかります。

 

おわりに

トランプ大統領に対しては、メディアを中心に「反脱炭素」のイメージが語られていますが、その発言や政策を読み解くと、トランプ大統領は無意味な脱炭素を否定しているのであり、脱炭素の流れ自体を止めるつもりではないことがわかりました。
トランプ政権の動向に惑わされず、今後も意味のある脱炭素への取り組みを進めていきましょう。具体的な脱炭素への取り組みについてお困りの場合は、弊社へお気軽にご相談ください。

 

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